RECOMMEND
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
ARCHIVES
MOBILE
qrcode
LINKS
PROFILE
OTHERS

06
--
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
--
>>
<<
--

HANDA WANDA DiaryPage.

HANDA WANDA Memberの声
asax:mitsuya
0

    白い魔女


    俺は散髪屋が嫌いだ。

    店内に充満する薬品のニオイ。ムッとする熱気。ちらばってる髪の毛。
    そして何より、てるてる坊主みたいな恥ずかしい格好で
    鏡の前に座らされ、マズい顔を何時間にもわたって
    見させ続けられるのは屈辱以外の何ものでもない。

    しかしまっとうなサラリーマンである俺は、社会人として
    最低限の身だしなみは維持せねばならぬ。
    俺は仕方なく、あの忌むべき魔窟へと挑むことにした。

    困ったことにいつも行っている散髪屋は経営難でツブれていた。
    そういえば前行ったとき、借金取りに差押喰らうかもねーとか
    嘆いてたなあのオヤジ。
    無事差押えられて観念していることだろう。

    目的地を失ったとはいえ、既に水杯を交わして覚悟を決めた俺は、
    男としてこのまま引き返すわけには行かない。
    さんざ夜の街をさまよった挙句、一軒の散髪屋をターゲットと定めた。

    軒先にハデに輝くネオン。店の兄ちゃんがチラシみたいの配ってる。
    内部を垣間見ると、化粧の濃いネエちゃんたちがハダけた衣装で
    なにやら談笑している。なんだこの店は。

    歯医者といい、散髪屋といい、最近のボディケア業界は
    過剰サービスに走る余り、その本分を忘れ完全に道を誤っている。
    これでは歌舞伎町の何とかパブと変わらんではないか。

    しかしこんな時間に他に開いてる店もない。明日も仕事だ。
    髪を切る機会は今日しかないのだ。
    それに男は一度やると決めたら、たとえ散髪であっても
    絶対にやりとげねばならぬ。

    いかに淫らなサービスがそこで展開されていようと、
    俺は決して欲望におぼれて道を踏み外さぬよう、
    スッキリしたいという唯一の目的を再度肝に銘じつつ、
    魔窟の扉を押し開いた。

    「いらっしゃいませ〜」若い女が笑顔で迎える。なかなか好みだ。
    あの〜、はじめてなんすけど。

    「はい、本日はどのようになさいますか?」
    アホなこと聞くな。髪を切りに来たに決まってるだろう。
    他に何かしてくれるのか。勘違いするな。
    俺は不毛な会話に不快を感じつつ、短く「カット」ととのみ答えた。

    聞けばいろいろコースがあるらしい。もちろんサービスに応じて
    金額が高くなるのだが、はじめての店であまり欲張るのは素人のすることだ。
    俺はとりあえずマッサージがついてくる通常コースを選択した。

    「1000円プラスでアロマテラピーができますけど」
    アロマだかパロマだか知らないが、要するにカネを出せば
    さらに過激なサービスをしてくれるということだろう。
    タケノコはぎの常套手段だ。その手に乗るかバーカバーカ。
    誤解してもらっちゃ困るが、俺はただ髪を切りに来ただけなのだ。
    その辺の酔客と一緒にされては迷惑だ。

    俺は居並ぶスタッフのなかから俺好みの色白の娘を指名すると、
    大鏡に向き合う待合席で屈辱的な時間を過ごしながら、
    その時が来るのを待った。

    さんざん放置プレイを堪能した挙句、ようやく指名の娘が
    俺の背後に立つ。やはり人気の娘はどこでも忙しい。
    丸い目をしたかわいい子だ。略してマメ子と呼ぶことにする。

    「今日はどのようにしますか?」
    マメ子はわが髪をやさしく愛撫しながらたずねる。
    俺も散髪暦は1年や2年ではないが、こういう問いかけに
    対する的確かつ万能な回答は未だ会得できない。

    うーんとね、耳だしてね、上はつんつんに短くしてね、
    前はね、うーん。そんなに短くしないでね。

    −という俺の気持ちを一言で表す魔法の言葉はないものか。

    俺の切ない思いが伝わったのか伝わってないのか、
    マメ子はニッコリ笑って頷くと、俺をシャワーのあるブースに誘った。
    この店のシャワーは頭だけでいいらしい。
    しかも全自動というふれこみだ。

    以前見た「こころの湯」という映画の冒頭に洗車機まがいの
    ワンコイン全自動シャワーマシンが登場したが、
    残念ながらこの店のテクノロジーはそれに遠く及ばない。
    だから髪だけなのだろう。

    俺は洗髪台に向かうイスに仰向けに寝かされると、いきなり頭部を
    がっちりロックされて体の自由を奪われた。な、何をするかっ。

    マメ子は何事もないかのごとく、平然と俺の頭へ怪しげな器具を
    装着してゆく。首筋に隠されたインターフェイスにプラグを挿入されれば、
    俺はいつでもマトリックスワールドへと飛び立てる状態である。
    向こうについたらまず電話を探さなきゃな、なんてことを
    ボンヤリ考えていると、突然マシンが轟音を立てて俺の頭皮に
    偏執狂的な刺激を与え始めた。

    幾数条にもわたる微細な水列が俺の毛根の一本一本を
    マニアックにほじくり、かきわけ、責めたてる。
    こ、これはっ。

    見えないからどうなってるのか分からぬが、水列は時に平行に、
    時にクロスし、移動しながらあの手この手を使って俺の頭皮を舐めまわす。
    そしてさんざ焦らしつつ、その攻撃は俺の首筋を狙って少しづつ
    スライドし始める。

    はふむっ

    秘所を衝かれた俺は不覚にも鼻から熱い息を漏らしてしまった。
    その時、卑劣にも俺の傍に黙って立っていたマメ子が
    得たりとばかりに声をかけた。

    「だいじょうぶですか〜?」

    こ、こいつめ。人が陵辱されるサマをこっそり覗き見るとは
    スケベ根性もはなはだしい。むこうへいっておれ。

    しかしマメ子が一向に立ち去る気配がないのを察した俺は観念し、
    なおも続く攻撃を歯を食いしばって耐え抜き、ひたすら平然を装った。
    こんな小娘にたるんだ姿を見せては、男としての沽券にかかわる。

    そしてマシンのタイマー音ととともにようやく苦悶の陵辱プレイが
    終わりを告げた。俺は力なくその責め具から身を起こした。
    既に骨抜き状態である。

    抜け殻のようになった俺を支えるようにして、マメ子は俺を一枚の
    鏡の前に座らせた。また鏡プレイか。いいかげんにしろ。
    見ると鏡の向こうには生気を失い青白い顔をした、
    みすぼらしい中年の小男がいる。
    しかもその扮装ときたら、でっかいてるてる坊主だ。
    お前は富士山か。いいトシしてコスプレか。
    醜くて見るに堪えない。俺は思わず鏡から目を逸らせた。

    俺が屈辱的カウンターパンチを存分に喰らっているのを
    確認するかのように、マメ子は小さく頷く。
    そしてその腰に鈍く光る銀色のインストゥルメントを構えると、
    軽やかな手つきで俺の頭上に乾いたサウンドのハーモニーを
    奏ではじめた。

    シャキシャキ。さくさく。さらさら。ポロンポロン。

    それは白い魔女が奏でるハープの音色のように、
    俺から思考能力を奪い、眠気を誘い、服従を誓わせる。
    甘くやさしく、しかし危険きわまりない音だ。

    そしてこの店に入ってからというもの、度重なる攻撃にさらされ、
    心身ともにもはやボロボロであった俺には、
    この音色に抗う力はすでになかった。
    俺はまんまとマメ子の魔手に堕ち、深い眠りへと引きずり込まれてしまった。

    ・・・
    一刻ばかりも気を失っていただろうか。
    気がつくと、俺の毛髪にすっかり怪しげな術を施し終えたマメ子は、
    とどめとばかりに背後から観音開きの鏡で攻撃をしかけてきた。
    マメ子は俺が鏡で大ダメージを受けていることに気づき、
    徹底的に弱点を攻める作戦に出たわけだ。

    もうちょっと、もみあげ、きってください。

    このままマメ子の術中にはまるのも面白くないので、
    とりあえずケチをつけておくことにした。
    術を破られたマメ子は不機嫌そうに、しかし、さからわず
    指定された位置をカットした。
    こうしてなんとか一本取り返し、面目を保つことに成功した。

    再び魔の洗髪台に引っ立てられ、頭髪の汚物を流される。
    俺にハンパな術は効かないとあきらめたのか、さきほどの
    拷問で俺が必死で平然を装ったのが功を奏したのか、こんどは
    あっさり手洗いで髪を濡らすに留まった。
    もはや多少のことではビクともせぬ自信があるが、
    やはりホッとした。

    そして舞台はマッサージタイムへと移行する。ようやくである。
    そろそろ金返せって言おうと思ってたのだ。
    そもそも俺は髪なんか切ってもらいにきたんじゃないのだ。
    勘違いしてもらっては困る。髪なんかいつでも切れるぞ。

    ここでさんざ俺を苦しめたマメ子は退陣し、別の娘が俺の背後に立った。
    髪にエクステンションをつけたいまどきの子だ。エテ子と呼ぼう。
    よろしくたのむぞ。

    エテ子はその細くて長い指を俺の肩に触れる。
    いきなり核心を衝かないのは、やはり老練な技を感じさせる。
    こいつ、プロだ。

    俺の肩に置かれたその手に徐々に力がこめられてゆく。
    つかむ。ひねる。つねる。
    い、痛いっ。

    親のカタキ、とばかりにエテ子は俺の肩を容赦なく握りつぶす。
    しかも一点集中攻撃だ。これは効く。さしもの俺もこれには参った。
    おのれ、あの細い指はフェイクだったか。
    エテ子め、万力かくしてやがったな。
    なんだってこんな痛っおなじと痛っこばかり攻め痛っるんだ泣

    しかしポーカーフェイスのミツヤと呼ばれた俺だ。
    これほどの責め苦を受けながらも眉一つうごかさず、悠然と
    その場に座り続けている。さすがだ。
    鏡に映るのは、この世の苦しみのすべてを一身に受け、
    なおも微笑むありがたい菩薩のお姿だ。

    全身の力を込めて斬撃を加えているにもかかわらず、
    まったく動じる気配のない俺を見て、エテ子は探りを入れた。

    「痛くないですか〜」

    痛いよ。あんた右手と左手でぜんぜん力違うよ。
    手クロスしてやっておくれよ。
    などという泣き言は思っても決して声に発してはならぬ。
    俺のダメージを悟られたら負けだ。負けるもんか。
    ふん、こんなのヘイキの平左だバカヤロー。

    直接攻撃では効なしと見たか、エテ子は奥からさらに凶悪な武器を
    引っ張り出してきた。巨大な黒いスリコギみたいなオブジェクト。
    ひ、卑怯者め。それで俺をなきものにしようという魂胆か。

    黒いオブジェは俺の背中に当てられ、必殺のスイッチが入れられる。
    ぶぅぅん。
    あ、これ気持ちいいや。うん、そこそこ。もうちょっと下やってくんろ。

    せっかくの秘密兵器も、常人を超越した俺には逆効果
    だったようだな、エテ子。この勝負は俺の勝ちだ。

    あらゆる手をつくしても俺を抹殺できなかったエテ子は、
    失意のうちにその戦場をあとにせざるを得なかった。

    「おつかれさまでした〜」
    捨てゼリフに悔しさがこもっている。相手が悪かったな。

    入れ替わりに白い魔女もといマメ子が帰ってくる。
    こいつには一杯くわされているが、もう同じ手は食わんぞ。

    マメ子はなにやら呪文を唱えながら、スースーする怪しい液体を
    俺の髪にふりまき、じっくりとなじませ、あやかしの術を施しはじめた。
    呪文は鏡の向こうの小男に語りかけているようである。
    誓って言うが俺に話しかけているのではない。

    鏡の向こうの小男は、マメ子の呪文に適当に相槌をうって
    場をなごませている。楽しそうだ。
    誓って言うが、俺が話しているわけではない。
    鏡の向こうのテルテル坊主野郎だ。

    マメ子は俺をブラピにすべく秘法の限りを尽くしたが、
    顔がすでにキアヌ・リーブスなので、これ以上アタマをどういじったって
    それ以下にしかならぬ。
    いじればいじるほど俺のキアヌ性が失われてゆくことに気づき、ついに

    「はい、おつかれさまでした〜」
    マメ子は降参を宣言した。
    ここにいたって俺の完全勝利が確定したのである。

    しかし彼女の秘法により、俺のキアヌ性も45ポイントほど減少を
    余儀なくされてしまった。いまだに回復しない。
    敵ながらなかなか見事な手練であったと褒めておこう。

    俺の凄腕が見込まれたのか、メンバーズカードをもらって
    ちゃっかり組織に組み込まれてしまった俺は、もう用ナシとばかりに
    夜の街へつまみ出された。
    俺の背後で天の岩戸は音を立てて閉じ、吹けど踊れどもう二度と
    開くことはない。最後の客だったらしい。

    スースーする髪を押さえながら家路を急ぐ。
    どうもすれ違う人に見られてる気がする。キアヌポイントだいぶ減ったのに。
    次回はスペシャルコースで頼んでみようかな。
    アロマなんとかもやってみようかな。

    スッキリした。

    | Asax:MITSUYA | 23:20 | - | - | - | - |